いちじしのぎ

生活から一時凌ぎで逃げては文章を書き、また生活に戻る人間の悲喜交交。あるいは、人生の逃避先「山」にまつわる話。

03/14 酔い, 03/15 ひまわり

初めて行くワインバーで、ジュース見たいな赤を飲む。砂肝と菜の花を炒めたやつが出てくる。春は苦味の季節だ。砂肝の弾力と共に噛み締める。髪を短くしたくなる。

送別の品をもらった。かわいい小さじのスプーンと鍋敷。春の野菜を使ってポタージュでも作ろうかな。芽キャベツおいしいですよね。この日は売り切れだったらしく、代わりに菜の花が乳白色の平皿に砂肝と一緒に並んだのだ。

他愛もない話を夜に溶かす。おしゃべりが止まないのを少しずつ噛み締めながらふと思うのは、一言も話さない時間があった夜のドライブ。

すー、すーと小さく寝息を立てる音だけがいつの間にか響いてくる。「いす、倒しな。着いたら起こすから」。私の好きな人はそれに従わなかった。

2軒目のマリブコーク。タコ唐揚に、にゅっと出したマヨネーズ。つくね、ぼんじり。しみじみ口に運んだワインの残り香の凹凸を、平行な味で均していく。奥行きのない町。宇都宮は人を吸い込まないのかもしれない。

 

お世話になった取材先にあいさつに行く。山に入る意味を変えてくれた人は、私に花束を用意してくれていた。「心が決まりました」。線香の香りが鼻に残る。見つめる先のあどけない顔の頬は、木枯らしを受けたのか、りんごのように赤い。

ケーキももらった。手作り。クルミの入ったチョコケーキ。山に向き合う姿勢を教えてくれた人の味わいは素朴だった。

飾らないものが一番良い。ふいに、尾瀬の帰りに聴いたラジオを思い出す。小学生だかが出したクイズ。簡単すぎたのに、途中で電波が途絶え、答えが分からなくなったのを、笑い転げながら新緑の日光を駆けた。

 

もうすぐ雪が溶ける。山がまた、開かれる。楽しみだ。道中の小さな出来事を愛するような旅に、また今年も出かけたい。