いちじしのぎ

生活から一時凌ぎで逃げては文章を書き、また生活に戻る人間の悲喜交交。あるいは、人生の逃避先「山」にまつわる話。

2024-01-01から1年間の記事一覧

ほんだしと理想の生き方

私が理想とする私が、実は私以外が造ったものだったことが往々にしてあって、でも結局一時期は、そういう主体を生きてしまったことがあるから、出来合いの他人の理想を、私はあまり躊躇なく受け入れてしまう側面がある。 で、それを一部では辞めようと思うの…

私たちは変温動物かもしれない

うまく言い表せないのだけれど、実家の周りには独特の空気感というのがある。広く県域の北側にあるような気もするけれど、20年近く育った場所とあってか、実家は特別な気がするのだ。 生き物を飼う仕事をしているし、野良猫がやって来ては、何匹かが家猫にな…

家路の消えた図書館

大きな川を過ぎて、緩やかな道を登っていく。ふいに訪れる左への急な坂を上れば、図書館に着く。 おそらく名のある人が建てたんだろうなという造り。700人そこそこが入るホールが併設されていて、屋外から見るとプリンをひっくり返したような円錐台という形…

生きることへの執着

「読んでほしい」という文章を読んだ。 添削してほしいとメッセージには添えられていたけれど、読後、そこまで踏み切る事は叶わなかった。私にそういって寄越した人は、人を亡くしていた。そして文章は、亡くした人に宛てられて書かれていた。 添削するに必…

夜のタラさん

「あなたの申請は却下されました」 画面に映る黒い文字を1分ぐらい、黙って見つめる。 胸で息をしている感じがした。文字の数もさほどだから、周りには余白がたくさんあった。文章の上に、承認者の名前がある。 最寄りの地下鉄の駅のホームのベンチに座って…

私のいいところ

元気なフリをしている人が苦手だ。 あ、この人取り繕ってる。さっきまで仏頂面をしながら仕事してたの知ってるぞ。人と話すときに空元気になるタイプの人。どうしていいかわからんから、とりあえず笑っとく。表の私に笑わせておく。 気を遣ってくれてありが…

水蒸気ひとかたまり

今週のお題「ほろ苦い思い出」 二人で連れ添って、景色を見に行った。6月。東北南部の有名な湿地帯は、この日だけ晴れていた。 登山が趣味だ。大概は一人で登るが、この時は二人だった。それも、好きな人だった。のしのしと前を行くその人の背中を追いかけて…

おもしろい話はできません

昔から、他人を楽しませようとして、話を少しだけ盛る癖がある。そのままを伝えるのが苦手だ。特に、自分自身について。 小学生のころ。給食の配膳に並んでいる時に、話をした。親と出かけた先で起きた出来事にあることないことを付け足して、笑える話にした…

生活のマストを外す

ふと、思う。生活の中に「マスト」が多すぎる。 仕事も含めて、みな当たり前に使う「マスト」。MUST。エムユーエスティ、マスト。英語で習う、命令形というやつ。使命や宣言の意味も帯びる。力強い言葉だ。 ああでも、これ、要らない。私はそういう使命感に…

自分らしさは、不能の距離である

自分らしく、と言われる。 全能であればいいのだろうし、自信を持てればいいのだろうし。20代の中ごろまで、ずっと言われた。「自信を持ってね」。自信がある人は違うなあと思った。 私は自信を身につけてこなかった。それ自体を欲しいと思ったこともなかっ…

城ヶ崎で

見覚えがある景色だった。 背の低い松の木々の間から覗くのは、林でなくて水面。1年半前の中禅寺湖畔で、みた景色だったが、音が違った。 岸辺に打ちつける水の、さーさーとノイズのような不規則な細い音に、時折鈍く低い音が混ざっている。ここは伊豆半島、…

狭間の生活

昼飯に来た。今日の日替わりは焼肉定食。 書いておくのだが、仕事始めのノリを作ることに失敗して、生活のテンションが落ちた。部屋で護摩祈祷を流してみたり(パチパチと火の燃える音入り)、善光寺の線香を炊いて部屋を「寺」のようにしてみたり。精神への直…

「自罰的感情は私を救わない」

スーツケースを引きずるを音がする。まもなく家のゲートを過ぎて、その人の部屋に帰っていくのだろう。 暦の上では、正月はまだ続く。成人の日と合わせて休みをとっている人は、8日までは休むのだろうが、私は明日から仕事が始まる。また1年が始まる。 今年…

人肌ぐらいに

昨日の日記は元旦の夜に投稿していて、だから全日空の事故の件は全く知らなかった。何度もテレビに流れる輪島市の様子に胸を痛めていたら、羽田での一件を知ることになったのだった。 この混迷をどう受け止め、咀嚼すれば良いのかわからないまま、正月休みの…

正直に生きることだ

新年早々の地震のニュースに、気持ちが持って行かれている。それぞれの仕方で「被災」した人々が画面の向こうにいる現実を、あまりうまく飲み込めない。かわいそうだなと独り言を言う前に、Yahoo!基金があったので、少額をそこに寄付をした。 今年は思った…

さもありなん:私的2023年振り返り 2/2

2023年を振り返る。 こういう時に書くものは、大抵雑になる。悲しかったことを書けば、そのほかにたくさんあった喜びが曇る。そういうものだから、これから書くことは全てではないし、書かれなかったことがそのまま私にとって重要でなかったことにはならない…

変わる生活:2023年振り返り 1/2

4階にある編集局のデスクで1人、ラップトップを広げて記事を書いていた。ような記憶がある。実際に何をしていたのかは覚えていない。部屋の南側にあった、局長デスクの真横の応接室。そこの窓から眺める宇都宮が好きで、そういう時に一人、窓を開けて冬の冷…