いちじしのぎ

生活から一時凌ぎで逃げては文章を書き、また生活に戻る人間の悲喜交交。あるいは、人生の逃避先「山」にまつわる話。

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ワンルームの部屋に住むのが4年ぶりだ。いや、もっと正確には6年ぶりか。江戸川区に住んでいたころ、社会人1年目のころに借りた物件がそうだった。駅徒歩15分の住宅街にある4階建ての3階だった。広いところにも住み、狭いところにも住んだ。

西陽の入ってこない薄曇りの日の黄昏はぼんやりしていていい。「西陽は攻撃的で、体力を食う」と言っていた知人がいて、これは経験的に正しいと毎回思う。西陽は辛い。でも、雲に隠れ、絶えず風が吹いているような春先の日にはちょうどよい。日が暮れていくのを新居からガラス越しに眺めている。

家から歩いてだいたい10分のところに都市公園があり、無印良品だのスーパーだのが隣接している。免許証の住所変更の帰りに公園に寄ってみたら、それなりの数のスケーターと、家族連れで賑わっていた。売店スジャータのソフトクリームを買ったら、不出来なチュロスを器用に巻いたようなそれを手渡された。「400円です」

遠くから見た時に公園の大きさを物語っていた林や森はフェンスで囲まれるようにしてあり、人が立ち入れないようになっていた。花見に興じる家族連れは、申し訳程度の芝が敷いてあるなだらかな土の上におり、子どもたちはゴツゴツした岩に転ぶ心配のないつるっとした土地を駆けていた。

周囲を見渡せばビルの影はなく、木々が私を覆った。それだけで与えられる安心感がある。その傍らで、もっと野生に近いもの、フェンスが谷底までを遮らない場所を目指したいなと考え始める。

ああ、この感覚は久しぶりだ。ようやく、また元に戻ってきた。明日は山に行く。