いちじしのぎ

生活から一時凌ぎで逃げては文章を書き、また生活に戻る人間の悲喜交交。あるいは、人生の逃避先「山」にまつわる話。

結婚なされた

速報のニュースが飛び込んできたと思ったら、嵐の櫻井くんと相葉くんが結婚したというやつだった。お相手は「一般女性」だという。Twitterのトレンドにもなっていて、速報が流れるテレビ画面から、おめでたい空気が社内にも広がっていった。結婚。つい2ヶ月前、知り合いの結婚報告に胸糞悪くなったのを思い出し(嵐は何も悪くないのに)また胸糞悪くなった。

今日は原因不詳の体調不良がずっと体の隅にあったみたいな日だった。何ヶ月かにいっぺん飲むエナジードリンクを飲んでもダメ、もちろんコーヒーやお茶の類もダメな日だった。さっさと家に帰り、お風呂の自動給湯のスイッチを入れた。

ふいに、QueenのLove Of My Lifeが頭をよぎった。嵐の祝われ方はこんなんではないだろうし、歌詞的にもこれは別れの歌だから、状況からして違うのだけど、個人的な気分としてはこっちな気がして、しっくり来た。

Queen(Brian,Freddie,John,Roger)

「あなたが私にとってどれほどの価値があるか、あなたは知らないでしょう」みたいなフレーズが肌寒い日に飲んでる紅茶みたいに体に入ってくる。家のスピーカーにiPhoneを繋いで、この曲を流す。SiriはJEWELS2のリマスター版を流した。

Queenは中学時代に出会った数少ない宝ものの一つで、それを教えてくれた友達には感謝してもしたりない。当時、Queenを聴いていることはORANGE RANGEほど馴染みがなくて受け入れられはしなかったけど、それから10年後にアダム・ランバートが率いる新生バンドのライブを見た時に、全ての瞬間に感謝したものだった。

そのライブでも流れていた。JEWELS2の次のトラックはブライアン・メイのボーカルで歌われる「'39」。朝靄が晴れていく瞬間をどこか別の場所で思い出しているようなイントロは中学時代に歌詞の意味もろくにわからない中学生時代を思い出させる。流行りのアブリル・ラヴィーンを好きな女の子とイヤホンを分けた思い出よりも、家で一人で聞いたJEWELS2の方がずっとパワフルな存在だというのは、今になってようやくわかった。

どんなバックストーリーがあるのか知らないけれど、結婚報告を素直に喜べないのは自分が結婚していないから実感を伴わないのもそうだし、日本では結婚できない人たちがいることを知っているからだ。おめでたいことだとは思うが、所詮は他人事。でも、体調不良にはおめでたの空気、ぜんぜんおめでたくないのだから困る。

Made In Heavenと続き、JEWELS2はいちど現世を離れる。この曲はフレディがボーカルトラックだけを残して亡くなった後、メンバーが伴奏をつけた曲としても知られている。もう生きていない人の声と、生きている演奏が一つの作品に同居する。いつ聞いても不思議な気分になる。

すべては天国のなせることだと言えてしまえばいいのだが、あいにくそう思い切れない。胸糞悪い結婚報告を天国にいる偉大な存在になすりつけるわけにはいかないので、フェードアウトで現世に戻ってくる。

胸糞はリスペクトできない。尊敬にはある程度の距離が必要なのだけど、胸糞とは距離を確保できない。思い切りに遠くに逃げるかよけるかして、別の尊敬を探したり作ったりするほかない。やばい相手は「鬼神を敬してこれを遠ざく」に限るのだ。

結婚とリスペクトは切っても切り離せないんじゃないかと思えてくる。ただ、そういう響きは「一般女性」からは漂ってこない。空っぽの器のごとく「一般女性」の響きにオーディエンスはさまざまな物事を突っ込んでいるんだろうけど。おめでたいことでございます。


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