いちじしのぎ

生活から一時凌ぎで逃げては文章を書き、また生活に戻る人間の悲喜交交。あるいは、人生の逃避先「山」にまつわる話。

日記

影のない人

気力が底をついて有楽町で電車を待っていたのが3日前だとは。けっこう回復した。よくやった、自分。 日曜日は山に行こうと思っていたが、鼻風邪が治らなかったから止めた。遅くに起きて、土曜の晩に見つけた新江古田のヘアサロンで髪を切った。いい天気だっ…

玉川上水から初台に抜ける

笹塚にてパンを買いて帰るは新宿への道。耳元には宇多田ヒカル。Play A Love Song。内省を促すアルバムのファーストソングを流しながら、舗装路をマルジェラで行く。 昼。心を十二分に満たしてくれるカレーを食べ、ピュアに真面目に作られたチャイに心を洗わ…

ラーメン

駅前のひなびた商店街の一角で見上げた空に、真っ赤に染まった積乱雲が立ち込めていた。音はしないが稲妻が見える。もうじき雨だと分かる。 確か、ラーメン屋で夕飯を食べていたその帰りだった。そこそこ評価のある店を探した。立体駐車場に停めていた車に戻…

麻布十番の飯屋

パッと入った麻布十番の飯屋は、沖縄料理を出す店だった。狭い店内に8テーブル。それぞれに椅子。座席に対して提供が間に合わなねえだろと思うのは、厨房含め、おばさんが2人だけだから。揚げたり焼いたりする音が同時に聞こえてくる。 隣の人のところに料理…

1R

ワンルームの部屋に住むのが4年ぶりだ。いや、もっと正確には6年ぶりか。江戸川区に住んでいたころ、社会人1年目のころに借りた物件がそうだった。駅徒歩15分の住宅街にある4階建ての3階だった。広いところにも住み、狭いところにも住んだ。 西陽の入ってこ…

東京に戻ってきた

3年半ぶりに、東京に戻ってきた。 引越して2日経つ。密集している中に緑を置いたり、狭いアパートを工夫して住みやすくしたりするのは嫌いではないが、最終出勤日の翌日には39度近い熱が出て力が入らなくなり、バファリンをやや過剰に摂取するハメになった。…

03/14 酔い, 03/15 ひまわり

初めて行くワインバーで、ジュース見たいな赤を飲む。砂肝と菜の花を炒めたやつが出てくる。春は苦味の季節だ。砂肝の弾力と共に噛み締める。髪を短くしたくなる。 送別の品をもらった。かわいい小さじのスプーンと鍋敷。春の野菜を使ってポタージュでも作ろ…

03/09 小麦との付き合い方

最後の泊まり業務を終えて、車に乗り込む時にふと思いつく。「パン屋でガーリックフィセルを買ってやろ」。 細い道を抜けた先にあるショーケースタイプのパン屋。両手で持ってかじりつくのがちょうど良いサイズのハードパン。あとクロワッサンをはっきりめの…

03/08 水分不足

コーヒーを飲みすぎている。会社に来たらマグカップに一杯。カフェインが効いてくるのを感じながらメールを返す。まもなくお昼。食後に飲む。夕暮れ。また一杯。 いつも春に肌がカサつくのが嫌だ。カフェインの摂りすぎで水分が足りない。分かってる。おいし…

短い旅

引き波 正午を少し過ぎてしまったのを後悔したけれど、結果的にはあまり大差がなかった。数年ぶりに来た大洗は、以前よりも車が少ないように感じた。 目当ての店は海沿いにあった。坂道の途中にある大洗磯前神社の駐車場に車を置き、潮風を浴びながら坂道を…

仕事と生活

「仕事と生活はどう切り替えていますか?」 「仕事と生活をなるべく近づけたいと思ったりしますか?」 これ、以前に比べてすっかり考えなくなった。仕事と生活。質問の答えは、端的にはノーだと思う。 以前は、切り替えていたのかもしれない。「休日にやるこ…

動くものと美しさ

「動物と美について」。有機物に宿る美しさとは。男性/女性の美。社会通念が美の感覚に与える影響とは何か。後世に人物画が残る理由は? 美しさとは何かという問いに、最もしっくり来る答えが「生命力」なんじゃないかと思う。この人が、この物が、生きてい…

大切なもの

「人生において大切なものは何でしょうか」。 SNSでブログに書く話題をゆるりと募っている。届いていた話題のうち、寄せられた質問。私の人生で大切なもの。昨年、そうなったものがある。自作したビアマグについて書く。 昨年6月、都内にある陶芸教室で、古…

老いる

「老い」と共に生きていくしかない。諦めのような感覚で正月を迎えた。 決定的だったと今になって思うのが、昨年秋、祖母が他界したことだ。ばあちゃんはゆっくり老いていった。孫の名前を時々忘れたまに思い出すのを、その割合を少しずつ逆転させながら生き…

買い物が下手

買い物が下手だ。なんでこうも上手くならないのかと自問する年の瀬なのが悔しい。 この文章は新しいロジクールのキーボードを叩いて書いている。品番はK855、なんとまあ打ちやすいことか。「メカニカル・キーボード」なんて仕組みを知らないけれど、カタカタ…

アボカド・トースト

風呂を沸かしながら、文章を書いている。年末だ。スーパーやドラッグストアではクリスマスソングがあっという間に「こがらし」になったし、元旦の営業はしませんよとのアナウンスが流れるようになった。年の瀬。今年が終わっていく。 長谷川潤がただアボカド…

ものの整理

物を捨てるのが苦手だった。 何かしらの理由で家に招き入れた物たちを、まだ使えるのに手放してしまうのに、どこまでも続くような後ろめたさがあった。普段は大して思いもしないくせに、いざ捨てるとなると「ああ、これはあそこで買ったんだっけな」なんて感…

唐沢山へ

日曜日は晴れの予報だったから、前日に山様の服を用意して寝た。すっきり晴れたはいいものの、このところの寝坊癖が取れずに、出発はお昼直前になってしまった。 目指した山は唐沢山。佐野市にある低山で、山頂には藤原秀郷が居を構えた謂れがあり、神社が立…

幻想の終わり

魔法が呪いに転じ、その呪いを解くのに必要なのは「LOVE POWER」。愛は記憶の木々に実り、育んだ者や必要な者が触れると輝く。呪いにむしまばれていく人を助けたいと願う人に力を与え、渦中にある人の元へ向かわせる。 DISENCHANTED。邦題は「魔法にかけられ…

浮かない顔

11月17日。晴れ。 気の進まない事柄が多くて毒されそうになったけれども、きちんと家に帰ってシチューを作ることができた。喝采。 集団的に士気が下がるのが苦手で、浮かない顔をしているやつは全員どこかに行ってしまいなさいとでも言いたい。とはいっても…

ツリー

11月16日。晴れ。 どこに行っても大きなクリスマスツリーを見るようになった。毎年感じるのはハロウィーンの装飾から切り替わるそつなさと、子どもの頃から楽しみだった季節になるなという感慨。取材で入ったホテルのロビーにも中央に大きな1本があって、華…

11月15日。雨のち曇り。 13日に観たブラックパンサーが頭から離れない日だった。仕事が終わって家に帰り、湯船に浸かりながら予告編を見返してみても、色褪せないどころか、むしろその完成度の高さに一層目を見張った。次の週末にIMAXシアターで2回目を観る…

川崎にて。

「もうね、家族になってるの。恋人って感じはなくて」。運ばれてきたばかりの生ビールで喉を潤してから、その人は言った。 どぶくさい匂いが遠くの方から漂ってくるJR川崎駅。入る店を迷ってたどりついたイタ飯屋の席には、サラミとチーズの盛り合わせ、オ…

山に在る日の幸い

命を終える時、あらゆる山の記憶を噛み締めて「本当に豊かな人生だった」と最期の一息をつきたい。山は楽しい場所であると同時に、命をたたむ準備を少しずつ進めるための場所になっている。 山で大切な人を亡くした人と、やり取りを続けている。故人の話を聞…

山形への旅/DAY.3「月山」

下山時にわずかな晴れ間がのぞき、嗚咽がもれた。 昨夜のうちに旅館の仲居さんに頼んでおいたお弁当には、おにぎりが二つ、蕗味噌のシソ巻き、昆布の佃煮、柴漬けが添えられていた。 こじんまりとまとめられた姿がかわいらしく、雨が止むまで、部屋に戻って…

山形への旅/DAY.2「羽黒山」

出羽三山神社に続く道。 旅館の夕食から戻ってきた。料金はカード決済していたから、出るときでなくてもいいはず。明日朝、出発前にもう一度確認しよう。 2日目。羽黒山に登った。出羽三山神社が山頂に鎮座していて、ここに来れば、月山と湯殿山にいかずとも…

山形への旅/DAY.1

ホテルから見た空。宮城では雨が大変だったようだ。 自然水を沸かした風呂に入り、撮った写真を現像した。新しくはないホテルはツインルーム。片方のベッドに荷物を置いている。ソファベッドもあるから、最大で3人まで入れる。そこそこ広い。東側に朝日連峰…

にくらしさ

カレーとホットサンド、ミネストローネの3つしかないメニューからしばし迷ってカレーを選ぶ。「いつもありがとうございます」。水を運んで来た人が、今日初めてそう言った。雨の日に来ることが多い。それも金曜に。 常連さんがチョコシフォンケーキと深煎り…

本を読めなくなっていた話

これは去年の春。家の近くの川沿いで。 ここ1年ぐらいの間、本を読めなくなっていたのが、最近ようやく読めるようになってきた。また読めるようになった、戻ったと言った感覚とは違くて、別の意味で言葉を追えるようになった感覚がある。 書いたものを誰かに…

ベースの思考が「山行きたい」になってしまった話

結構なことだと思うんだが、仕事中も重要なことをやってる時間以外はほぼ「山」のことを考えるようになってしまった。 なんという変化か。10年前に大学生になったばかりの自分には想像に及ぶ訳が無い世界が待っていた。19歳の自分はその1年後に読書の楽しみ…